「亡き人と暮らす―位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗―」
開催概要
開催期間
2022年3月15日(火)~ 9月25日(日)
会場
国立歴史民俗博物館 第4展示室 特集展示室
料金
一般600円/大学生250円
高校生以下無料
開館時間
9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日
月曜日(月曜日が休日の場合は開館し、翌日休館 ※5月2日(月)、8月15日(月)は開館)、
6月7日(火)、8月2日(火)、9月13日(火)
主催
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※障がい者手帳等保持者は手帳等の提示により、介助者と共に入館無料です。
※高校生及び大学生の方は、学生証を提示してください。
※博物館の半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。 また、植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
趣旨
仏壇は、人々が日常的に故人と向かい合う場として大きな役割を果たしてきました。仏壇は仏を拝むものというイメージもありますが、なかには本尊仏はなく、位牌だけが安置されている仏壇もあります。位牌はその家の先祖のものであり、むしろ仏壇と位牌が密接に結びついていったことで、仏壇があらゆる階層に浸透していったと考えられます。つまり先祖祭祀の場として、仏壇が一般に普及していったことも、その特徴といえます。
従来、仏壇の起源については関心が払われてきました。しかし、仏壇祭祀で切り離すことのできない位牌やその他の仏具が、どのように祀られてきたのかについては、地域的な多様性も含め、まだ十分に解明されていない点も多いのです。さらに近年、少子高齢化の進展や家族観の変容によって、仏壇じまいや手元供養の出現など、大きな変容も生じています。
そこで本展示では、仏壇や位牌、仏具などのさまざまな祭具に注目し、仏壇祭祀の展開やその地域的多様性、現代の変化など、家のなかでおこなわれる死者の祭祀の多様な歴史と民俗について考えていきたいとおもいます。
本展のみどころ
- 当たり前と思っていた仏壇の祭祀の多様な歴史がわかる。
- 死の文化が変容する現在、死者祭祀の先端的な状況をつかむことができる。
- 明治期の写真付位牌など位牌の変遷、盆の造花の文化など、特徴ある位牌、仏具の展開が見られる。
展示の構成
1 仏壇のかたち
本文約260万年前から現在まで続く氷河時代のなかで、地球が最も寒かったのが最終氷期(約11万〜1万2千年前)です。約3万7千年前にホモ・サピエンスは日本列島にやってきました。約1万2千年前から始まる後氷期とは全く異なる環境の中で、当時の人びとは移動性が高い狩猟採集の生活を営んでいました。テキストリンク最終氷期に生きた日本列島 の後期旧石器時代(約3万7千〜1万6千年前)の人びと、そして縄文時代草創期(約1万6千〜1万1千年前)の人びとの生活の様子を見ていきます。
2 位牌の多様性と仏具
位牌は、中国の禅宗で使用され、日本にも中世、禅宗を通して導入され、次第に各宗派に広がっていきました。葬儀では、仮の位牌として白木位牌を作り、その後本位牌として漆塗りの位牌を作って仏壇で祀るということが一般的です。しかし、位牌の形態も多様であり、地域や時代によって異なり、また葬儀の際の白木位牌を祀り続ける地域などもあり、位牌祭祀のあり方もさまざまです。また仏具も香炉、燭台、花瓶が供養のために必要とされましたが、重視されるものが異なることがわかります。
3 手元供養の誕生と仏壇の行方
ライフスタイルや家族構造の変化は、仏壇の祭祀にも大きな影響を与えています。人々の移動が激しくなり、核家族化の進んだ今日、仏壇ばなれ、仏壇じまいなども生じています。また仏壇や位牌とともに、あるいはそれらを設けずに遺影写真を飾る家庭も増えてきました。故人の遺灰の一部を専用の容器やペンダントに保管して故人を偲ぶ手元供養も誕生し、その祭祀のあり方は、個人化していくとともに多様な傾向を示しています。さらに故人を偲ばせるデジタルデータも祭祀の対象となるなど、追悼の時空間は大きく変化しています。
主な展示資料
- 画図百鬼夜行 塗仏 1776(安永5)年・鳥山石燕 国立歴史民俗博物館蔵
- 戸棚式家具仏壇 国立歴史民俗博物館蔵
- 沖縄仏壇および仏具 国立歴史民俗博物館蔵
- 二代目中村翫雀死絵 1861(万延2)年・芳瀧画 国立歴史民俗博物館蔵
- 中村飛鶴死絵 1881(明治14)年 国立歴史民俗博物館蔵(1)
写実的な白裃姿の中村飛鶴が手にしている白木位牌は、自らが亡くなる八日前に逝去した義父四代目中村嘉七のものである。義父の死の間もないことを白木位牌で表現している。
- 匝瑳地域旧家位牌 明治時代 国立歴史民俗博物館蔵(2)
千葉県北部匝瑳地域のある旧家が祀ってきた位牌群で、江戸時代以来の位牌形式の変遷がわかる資料である。写真は明治期の廟所形位牌である。
- 遺影写真付位牌 1905(明治38)年 個人蔵
- 地蔵の土人形 国立歴史民俗博物館蔵
- 欅位牌 個人蔵(3)
千葉県北部から茨城県南部にかけ、戦中から昭和の終りまで盛んに作られたケヤキ材製の位牌。戦時中漆が不足したことで、ケヤキ材の位牌がこの地域では流行した。
(1)
(2)
(3)
- ボンバナ 個人蔵(4)
千葉県や埼玉県などで仏壇に供えておく造花で金花などともいう。盆の時期に購入し1年間仏壇に飾って次の盆になると取り替える。
- モリモノ 個人蔵
- 手元供養 リング フラワー 株式会社メモリアルアートの大野屋蔵・画像提供(5)
花をモチーフにデザインされたシルバー製リングであり、手前のメインの花の中に遺灰を入れることができる。手元供養として故人を身近に感じるために身につけたいということで指輪も使われている。
- 手元供養 繭環 トモエ陶業株式会社蔵・画像提供(6)
小型の収骨容器と拝礼のための花瓶や香炉、りんなどが統一的デザインによって構成されている。繭のイメージをもつオブジェ形の手元供養品であり、仏壇に代わる追悼道具としても使われる。
(4)
(5)
(6)
- 仏壇のリメイク 株式会社保志 画像提供(7)
先祖からの仏壇が大型であったり古くなっても、なんとか形として残したいという人々の思いから、仏壇のリメイク事業が誕生している。そこでは、旧来の仏壇の部材を利用してそのイメージを引き継ぎつつ、現在の居住空間に合わせた仏壇に作り替える。写真は金仏壇をリメイクした家具調仏壇である。
(7)
以上約110点
※展示替えがあります。
1. 画図百鬼夜行 塗仏
1776(安永5)年・鳥山石燕 国立歴史民俗博物館蔵
仏壇から塗仏という妖怪が現れている図。この仏壇は戸棚式の造り付けの仏壇で、下部は低い地袋であり、上部の仏壇は障子戸で、仏像が置かれ、器と花瓶が見える。
2. 戸棚式家具仏壇
国立歴史民俗博物館蔵
青森県で使用された移動が可能な戸棚式の家具仏壇である。上段は障子の引戸になっており、中には位牌を安置するための狭い段が設けられている。
3. 沖縄仏壇および仏具
国立歴史民俗博物館蔵
沖縄における家具式の仏壇。トートーメーといわれる位牌を中心に、大型の香炉を据える。住宅の近代化とともに家具式の形態が生まれた。
4. トートーメー
国立歴史民俗博物館蔵
沖縄の位牌で、中国文化の影響を受け大型のものが多い。儒教原理に基づいて父系男子子孫などによる継承が強調されてきた。
5. 二代目中村翫雀死絵
1861(万延2)年・芳瀧画 国立歴史民俗博物館蔵
位牌の中に戒名などとともに手に数珠を持った翫雀の肖像が描かれている、死絵としては珍しい図柄である。
6. 遺影写真付位牌
1905(明治38)年 個人蔵
遺影写真をはめ込んだ位牌。遺影写真普及の要因のひとつとして、戦死者の追悼行為がある。日露戦争という早い段階での珍しいものである。
7. 地蔵の土人形
国立歴史民俗博物館蔵
秋田県秋田市八橋で作られた地蔵の土人形。子どもが亡くなるとこの地蔵の裏面に戒名、命日、行年などを書いて供養のため寺院の位牌堂に安置する。
8. モリモノ
個人蔵
埼玉県東部では、盆に蓮華の造花のほか、モリモノといわれる作り物を仏壇に飾る。供物を表現するもので、造花と供物の飾り物によって仏壇を常に荘厳していた。
展示代表
山田 慎也
YAMADA Shinya
教授
副館長、研究部民俗研究系
社会学博士(慶應義塾大学)(2000年取得)
専門分野:民俗学・文化人類学
主要研究課題:葬制と死生観・儀礼研究
所属学会:日本民俗学会,日本文化人類学会,日本宗教学会,宗教と社会学会,葬送文化学会
学歴:慶應義塾大学法学部法律学科(1992年卒業)
慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻修士課程(1994年修了)
慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程(1997年単位取得退学)
国立民族学博物館COE研究員、東京外国語大学非常勤講師を経て、1998年国立歴史民俗博物館研究部助手に着任。現在、広報連携センター長を務める。おもな著書は『現代日本の死と葬儀:葬祭業の展開と死生観の変容』(2007、東京大学出版会)、編著書に『変容する死の文化:現代東アジアの葬送と墓制』(2014,東京大学出版会)など