昆布とミヨク-潮香るくらしの日韓比較文化誌
国際企画展示「昆布とミヨク-潮香るくらしの日韓比較文化誌」開催中止について
3月17日から5月17日までの日程で開催を予定しておりました 国際企画展示「昆布とミヨクー潮香るくらしの日韓比較文化誌ー」につきまして、新型コロナウィルス感染防止に伴う臨時休館が続いており、期間内の再開館のめどがたたないことから、開催を中止することといたしました。
共同研究を含めて足掛け5年にわたり、韓国国立民俗博物館と共同で準備を進めてきた展示の開催を断念することは、苦渋の選択であり断腸の思いでありますが、なにとぞご了承くださいますようお願い申し上げます。なお、展示図録は(一財)歴史民俗博物館振興会でこれまでどおり販売を続けてまいります。
開催概要
開催期間
2020年3月17日(火)~5月17日(日)※開催中止
会場
国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
料金
一般:1000(800)円 / 大学生:500(400)円
小・中学生、高校生:無料 /( )内は20名以上の団体
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※高校生及び大学生の方は、学生証等を提示してください。
(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳提示により、介護者と共に入館が無料です。
※博物館の半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間
9時30分~17時00分(入館は16時30分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。
休館日
月曜日(休日の場合は翌日が休館日となります)
主催
大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
韓国国立民俗博物館
「昆布とミヨクー潮香るくらしの日韓比較文化誌」の紹介動画を歴博公式YouTubeチャンネルにて公開しております。(外部サイト)
趣旨
国立歴史民俗博物館と韓国国立民俗博物館は、両館の学術研究交流の促進を目的とし、2015年より国際交流事業「日韓地域研究の実践的展開」を進めてきました。また同時に共同研究「海の生産と信仰・儀礼をめぐる文化体系の日韓比較研究」を立ちあげ、3年間、日本と韓国の各地を訪れて準備研究を行いました。その成果を国際企画展示「昆布とミヨク―潮香るくらしの日韓比較文化誌」として発表します。この展示は、両国の国立博物館が共同で企画を練り、日韓でほぼ同じ内容でおよそ400件の展示を行う画期的な試みです。すでに韓国では2019年10月2日(水)~2020年2月2日(日)の日程で公開されており、好評を博しています。
昆布とわかめ(ミヨク)。日本でも韓国でも、どちらもなじみ深い海藻で、古くから日々のくらしの糧とされてきました。一方で、儀礼食や贈答品という観点からは、日本では昆布が、韓国ではわかめが重要な役割を果たしており、異なる文化的意味を持っています。海底の岩に根を張って、長く青黒いその姿を揺らす昆布とわかめは、似ているけれども、どこか違う。違うけれども、どこか似ている。日本と韓国との関係を、昆布とわかめに象徴させることができるのではないか、という発想から、本展示は出発します。
列島を成す日本と半島を成す韓国は、ともに長い海岸線を持ち、共通する海洋環境も多くあります。一方で、韓国西南海の広大な干潟や日本が面する太平洋など、独特の環境も存在します。また、長い交流の歴史に裏づけられた東アジア的文化基盤を共有するとともに、独自の文化的展開や技術的発展が見られます。本展示では、日本と韓国の、海をめぐるありふれた日常の歴史とその移りかわりに、類似と相違という観点から光をあてます。先人たちが互いに影響しあい、主体的に相手の文化を受けいれてきた躍動的な姿をご覧ください。
日本のコンブ漁
韓国のワカメ漁
本展のみどころ
- 日本初! 日韓の生活文化を比較した大規模な展覧会です。
- 焼肉だけじゃない。多様な海産物で作る塩辛や、祖先祭祀で供えられる魚介類など、奥深い韓国の海産物利用の歴史と文化を紹介します。
- だしの歴史や熨斗の文化など、日本人も確認しておきたい、海産物と日本人の関係も紹介します。
- これは日本?それとも韓国?漁師の技術や信仰など、日韓の海をめぐる文化の類似と相違にせまります。
- 漁村や魚市場、そして祭りなど、日韓の人びとの生き生きとした姿を映像でも楽しめます。
- 近代における日韓の文化的影響関係を、生活者の主体的な受容という視点から読み解きます。
展示の構成
プロローグ 海のひろがる日常
日本人と韓国人はどのような海産物を、どう調理して食べているのでしょうか? 日本と韓国の魚屋の店頭をモニターで再現し、魚屋さん同士の掛け合いで解説します。
第1部 海を味わう
1.1 味の基本の海産物
和食では鰹節や昆布などの出汁から旨味を得ますが、韓食ではエビやカタクチイワシなどを原料とする塩辛が味の基礎となります。日韓の食文化を支える出汁と塩辛の製法や製品を紹介しつつ、その歴史についても紐解いていきます。
左「女人塩辛商人」/ 右「海老塩辛商人」ハ・ウン画『風俗画帖』
1907年 韓国国立民俗博物館蔵
スズメダイの塩辛甕
20世紀 韓国国立民俗博物館蔵
日本山海名産図会
1799年 個人蔵
江戸時代の土佐(現在の高知県)のカツオ一本釣りから鰹節製造までの様子が描かれている。
鰹節製造用具(生切り庖丁)
現代 個人蔵
一本のカツオを四本の節に切り分けるための庖丁。部位によって使い分ける。
1.2 儀礼と海産物
正月をはじめとする日本の年中行事では、さまざまな場面で海産物が使われ、贈答や儀礼の場では、熨斗アワビや鰹節などの海産物が欠かせません。一方、韓国の祖先祭祀では、干したスケトウダラやイシモチ、タコなどが供えられ、人生儀礼では子供の無事の誕生と成長をワカメで祈ります。日韓それぞれの海産物にこめられた意味について考えます。
「錦沙公祭需記」
1950年 韓国国立民俗博物館蔵
祖先祭祀の物品を記録した文書。 干しスケトウダラ、サメ、ガンギイ、ニベ、マダラ、貝類などが確認できる。
「竈王祭祝文」
年代不詳
財団法人緑雨堂ユン・ヒョンシク蔵
台所を守る竈王神に家庭の幸福を祈願する文書。わかめ(甘藿)とわかめスープ(藿羹)が供え物として記載されている。
幸木と節米 模型
現代 福岡市博物館蔵
福岡市東区弘の正月飾り。
結納品一式(富山県氷見市)
現代 国立歴史民俗博物館蔵
熨斗(ハコフグ)
現代 福岡市博物館蔵
第2部 海に生きる
2.1 漁師の技
日韓の漁法には似ている部分もあれば違っている部分もあります。その背景には、海産物の嗜好や、それを獲るために重ねられてきた工夫が見られます。日本のコンブ漁と韓国のワカメ漁を例に日韓の磯漁を船や道具を通して比較するとともに、黒潮の海、太平洋で営まれる日本のカツオ・マグロ漁と、韓国の西南海岸の大きな潮汐を利用して営まれる干潟漁の様子を紹介します。
韓国のワカメ採取用テベ(筏)
20世紀 韓国国立民俗博物館蔵
カジキ突きんぼう漁具一式
20世紀 館山市立博物館蔵
国指定重要有形民俗文化財
トンチゲ(ワカメ採取用)
20世紀 韓国国立民俗博物館蔵
ナゲマッカ(コンブ採取用)
20世紀 国立歴史民俗博物館蔵
児島湾漁撈回漕図 複製
1798年(原品) 国立歴史民俗博物館
岡山県児島湾での漁を描いた絵馬。干潟でガタスキーに乗る人やうなぎ掻きをする人などが見える。
2.2 漁師の信仰
日本でも韓国でも、漁師が海上安全と豊漁を祈る気持ちは変わりません。では、漁師たちが思い描く神霊とは、どのような存在なのでしょうか。日韓ともに信仰される龍神の存在や、韓国の漁船が海上安全と豊漁を願って祀る将軍神、日本の漁師の信仰を集めるエビスなどをとおして、日韓の漁師の心のなかにある海の姿をとらえます。また、徳島県の椿泊と済州道のチュジャ島の祭りの様子も紹介します。
マイウェー(龍宮)
20世紀 国立歴史民俗博物館蔵
大漁の際に船主や網主が漁師などの関係者に配った祝い着。めでたく、縁起の良い絵柄が鮮やかに染め抜かれており、龍宮もまた定番の柄であった。
龍王図
20世紀 韓国国立民俗博物館蔵
ホセンウォン
現代 韓国国立民俗博物館蔵
全羅南道珍島郡鳥島で豊漁や安全をつかさどるトッケビ。浜辺に連れていったり、船から漁場に投げ入れたりして、豊漁と安全を祈願した。
海神図
1960~70年代
韓国国立民俗博物館蔵
鰹のエビス像 複製
年代不詳
国立歴史民俗博物館蔵
カツオ漁が盛んであった屋久島では、タイではなくカツオを抱いたエビスが祀られている。
オイベッサー
現代 貴船神社蔵
長崎県壱岐市の定置網の組が祀るエビス。秋に若者が海から丸い石を拾い、それを一年間エビスとして祀る。
第3部 海を越える
3.1 東アジアの近代と日韓漁民の接触
明治初期にはじまった日本人漁民による朝鮮半島近海への出漁は、1889(明治22)年に結ばれた協定「日朝通漁規則」や韓国併合によって環境が整備され、拡大します。釣りや打瀬網といった季節的な小規模漁業が、しだいに、イワシ巾着網のような大規模で組織的な漁業へと展開し、日韓の漁民のかかわり方が変化する過程を追います。
大漁旗
20世紀 個人蔵
大漁旗
1970年代
韓国国立海洋博物館蔵
「日本朝鮮両国通漁規則」複製 |
1889年(原品)
国立歴史民俗博物館蔵
「方魚津回想地図」
2011年
韓国蔚山東区文化院蔵
岡山県の日生から韓国蔚山市の方魚津(バンオジン)に移住した人が、記憶をもとに描いた日本人町の地図。
カブト(器械潜水用)
20世紀初
太良町歴史民俗資料館蔵
3.2 漁民の移動と文化の変容
日本人漁民による新たな漁法の導入と、東アジアにおける広域的な経済圏への朝鮮半島の編入は、在来の漁業に急激な変革をもたらすとともに、食文化にも多大な影響を与えました。そのうちの一つがカタクチイワシであり、日本人がもたらした煮干の文化は、現在の韓国に定着しています。一方、日本の海をめざした済州島の海女の痕跡は、日本の海女文化に現在も残されています。日韓の漁民の移動が、双方の生活文化に大きな変化をもたらしたことを示します。
「愛媛県越智郡魚島村韓国出漁之状況」複製
1907年(原品)
国立歴史民俗博物館蔵
「漁猟許可証」
1936年 個人蔵
鎮海要塞発行のカタクチイワシの権現網(曳網)漁船6隻の漁業許可証。権現網は広島県坂町の 漁師によって朝鮮半島でひろめられた。
チョウセン
20世紀 館山市立博物館蔵
国指定重要有形民俗文化
千葉県千倉町の海女が着た朝鮮式磯着。
チョウセン
20世紀 館山市立博物館蔵
国指定重要有形民俗文化財
千葉県千倉町の海女が着た朝鮮式磯着。
エピローグ 海がつなぐ日本と韓国
日本の食卓でなじみ深い明太子は、戦後の博多で、韓国での思い出の味が再現されたのがはじまりです。現在では、韓国でも日本式の明太子が主流となり、韓国の伝統的な明太子は、幻の味となっています。日本と韓国のつながりが新たな文化を生成し続けているということを、明太子を例として再確認します。
展示プロジェクト委員
展示代表
松田 睦彦
MATSUDA Mutsuhiko
准教授
研究部民俗研究系
博士(文学)(成城大学)(2007年取得)
専門分野:民俗学
主要研究課題:生業の技術および生業をとりまく信仰・儀礼・社会組織等の生活文化に関する総合的研究
所属学会:日本民俗学会・日本民具学会・日本文化人類学会
学歴:早稲田大学第一文学部文学科日本文学専修(1999年卒業)
成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期(2002年修了)
成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程後期(2007年修了)
著書に『人の移動の民俗学―タビ〈旅〉から見る生業と故郷―』(慶友社、2010年)共編著に『柳田國男と考古学―なぜ柳田は考古資料を収集したのか―』(新泉社、2016年)等。
展示プロジェクト委員 ※五十音順
キ・リャン(韓国国立民俗博物館)
ジョン・ヨンハク(韓国国立民俗博物館)
チェ・ウンス(韓国国立民俗博物館)
チェ・ミオク(韓国国立民俗博物館)
オ・チャンヒョン(韓国国立民俗博物館)
ソン・キテ(木浦大学校島嶼文化研究院)
飯田 卓(国立民族学博物館)
磯本 宏紀(徳島県立博物館)
川島 秀一(東北大学災害科学国際研究所)
昆 政明(神奈川大学)
島立 理子(千葉県立中央博物館)
藤永 豪(西南学院大学)
小池 淳一(国立歴史民俗博物館)
荒木 和憲(国立歴史民俗博物館)
川村 清志(国立歴史民俗博物館)
清武 雄二(国立歴史民俗博物館)
鈴木 卓治(国立歴史民俗博物館)
西谷 大(国立歴史民俗博物館)
村木 二郎(国立歴史民俗博物館)
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