第444回「顔・身体をもった縄文土器」

歴博講演会

開催要項

日程

2023年7月8日(土)

講師

中村 耕作(本館考古研究系准教授)

講演趣旨

本講演では縄文土器の特徴である顔・身体装飾をもった土器を、丁寧に順番に並べていった時に分かってきたことをお話しします。

約5000年前の縄文時代中期中葉の中部高地周辺には、「顔面把手付土器(がんめんとってつきどき)」とよばれる一群がありますが、これが盛行する時には、先行する系統である「土偶装飾付土器(どぐうそうしょくつきどき)」は、足から順に土器の器体の文様に融合してしまいます。同時に、土器の上に顔から腰までの土偶が付いた「土偶付土器」が出現し、やがてその土偶に尻、脚が伸びていきます。つまり、土偶のような顔が付いた、一見よく似た土器群は、互いにその盛衰の時期を補い合いながら、また顔・半身・全身という表現を変えながら、変化していったのです。

約2000年後、後期後葉の東北・北海道には、注口土器(ちゅうこうどき)や香炉形土器(こうろがたどき)に、時には複数の顔が付きます。これも、もう少し前から順に追っていくと面白いことが分かります。後期中葉の注口土器にはまだ顔はありません。注口土器自体が土器群の中で別格の存在だったのです。しかし、その後、他の土器と同じ文様をもつ標準的な注口土器に加えて、微隆線という特殊な文様をもち赤彩したもの、さらに環状注口土器や巻貝形注口土器などの特殊な形態が出現し、新たに香炉形土器が出現し、そして顔が付くに至るのです。ここからは、「より特別な土器」を目指して次々に形が複雑になっている、その頂点に顔が付くということが分かります。縄文人も「顔」を特別な存在と考えていたのでしょう。